| 渕上 哲 ( 介護老人保健施設あいかわ施設長、博愛会病院もの忘れ外来担当医 ) |
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| (1)“脳リハビリ”って何のこと? (2)“脳リハビリ”の目的 (3)「脳のはたらき(知的機能)」の低下と障害;「老化」から「認知症」へ (4)「認知症の早期発見」=「脳のはたらき(知的機能)を測ること」 (5)あいかわの“脳リハビリ” (6)“脳リハビリ”の具体的な方法 (7)かくしゃく(矍鑠)長寿に向けて |
| (1)“脳リハビリ”って何のこと? | ↑目次へ |
| “脳リハビリ”とは、“老化現象や様々な病気のために衰えた脳のはたらき(知的機能)を改善したり、悪化を防止するためのリハビリテーション”で、「脳刺激訓練」や「脳活性化訓練」とも呼ばれています。最近、認知症の予防や進行防止ということで、学習療法や音楽療法、動物療法、園芸療法、回想法などが全国各地に広まりつつありますが、そうした中で、平成18年4月から「認知症短期集中リハビリテーション」が介護老人保健施設における介護保険サービスとして制度化されました。 | |
| (2)“脳リハビリ”の目的 | ↑目次へ |
| 家庭やデイサービス(デイケア)、施設などにおいて実際に脳リハビリを始める際には、その目的(目標)を明らかにしておくことが大切です。脳リハビリの目的は、認知障害の進行度(脳のはたらきの障害の程度)によって大きく2つに分類されます。 A.認知症の予防を目的とした脳リハビリ まだ認知症の症状が見られない場合でも、すでに認知障害が進みつつある場合が決して少なくありません。また、脳の老化現象が年齢相応以上に進んでいても日常生活ではほとんど気付きません。このような「認知症と診断される以前」の段階の高齢者を対象とした脳リハビリが、「認知症の予防を目的とした脳リハビリ」です。 認知症の予防を目的とした脳リハビリを始める際には、脳リハビリの内容よりも「認知症の早期発見」(“早期認知症”の状態に気付くこと)が最も大切です。 B.認知症の進行防止(症状緩和、認知障害の進行防止)を目的とした脳リハビリ すでに認知症の症状が見られるようになった場合でも、脳リハビリを始めることによって認知症の症状を緩和したり、認知障害の進行を防止することが可能であることが明らかになってきました。認知症になっても(認知障害が認められるようになっても)、認知機能の全てが障害されている訳ではありません。「出来なくなった機能」があっても、「まだ出来る機能」が十分残されています。その人がその人らしい生活を出来るだけ長く続けられるよう、「まだ出来る機能」の維持や活用を目的とした脳リハビリにも積極的に取り組んでいく必要があります。このような「認知症と診断された」段階の高齢者を対象とした脳リハビリが「認知症の進行防止を目的とした脳リハビリ」です。 認知症の進行防止を目的とした脳リハビリを始める際には、対象となる高齢者の生活歴や性格を十分把握し、それらを活用した内容を中心に、脳リハビリを進めていくことが大切です。 * 以下(3)〜(6)では、「認知症の予防を目的とした脳リハビリ」について順次説明していきます。 |
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| (3)「脳のはたらき(知的機能)」の低下と障害;「老化」から「認知症」へ | ↑目次へ |
| 脳のはたらき(知的機能)は「前頭葉」と「脳後半部(左脳・右脳)」によって維持されています。左脳は言葉や数字では表すことのできる情報(理論や計算など)の出入りに関わり《理性の脳》、右脳は言葉や数字では表せないような情報(芸術やスポーツなど)の出入りに関わっています《感性の脳》。前頭葉は知的機能全体の司令塔ともいうべき領域で、大脳辺縁系という領域(動物脳)とともに“心の機能”にも関わっています《人間性の脳》。 脳のはたらきとその障害を評価するための検査法としては、前頭葉のはたらきを測る「かなひろいテスト」、脳後半部(左脳、右脳)のはたらきを測る「MMS;簡易知能検査」が、最も有用かつ簡便です(浜松二段階方式)。そして、これらの機能を検査することにより、いわゆる老化現象から認知症へと進行していく過程が明らかにされてきました。 《 「小ボケ」から「中ボケ」、「大ボケ」へ 》 前頭葉のはたらき(かなひろいテストの成績)は、20歳代から加齢とともに直線的に低下していくことが知られています。そして、認知機能(MMSの得点;30点満点で24点以上が正常領域)がまだ正常であっても、前頭葉のはたらきが年齢相応以下に低下している状態が「小ボケ」と言われるレベルです。この時期には家庭生活には支障はなく社会生活にやや支障が出始める程度で、多くの場合、「もの忘れがひどくなった」、「うっかりすることが増えてきた」などの自覚もあり、周囲も注意をしていれば「いつもボーッとしている」、「うつ病のように閉じ篭ったり、塞ぎ込むようになる」、「相手の意見を聞かなくなる」などの症状に気付くことができます。 次いで、上記のような前頭葉のはたらきが病的に低下している状態が続くと、次第に認知機能も病的に低下し「中ボケ」と言われるレベル(MMSの得点;23点〜15点)になります。この時期には、家庭生活にやや支障が出始める程度で周囲も気付きにくく、本人にも「もの忘れやうっかりの自覚」がなくなってくるため、「同じ話を何度も繰り返す」、「物を盗られたと騒ぎ出す」などの症状が目立ってきます。入院や旅行、転居など、生活環境に変化がある場合に症状が出現することが多く、俗に言う“まだらボケ”の状態となり、周囲も認知症が始まったのかどうかの判断に迷うことが決して少なくありません。しかし、「中ボケ」は現在の「月」は正しく答えられても「日」や「年」は正しく答えられない状態であり、家庭や地域で「中ボケ」であるかどうかを見分けるポイントとして「日付の確認」は大変有用です。 「大ボケ」(MMSの得点;14点以下)は世間一般に言われる“認知症”のレベルですが、あまり進行していないレベルでは、しっかりと挨拶ができる、表情豊かに会話ができる、自分の誕生日を言うことができるなど、その人がその人らしく生活するための「まだ出来る機能」が十分に残されています。 |
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| (4)「認知症の早期発見」=「脳のはたらき(知的機能)を測ること」 | ↑目次へ |
| 認知症の予防を目的とした脳リハビリを実施するためには「認知症の早期発見」が最も大切です。認知症の早期発見とは“早期認知症”の状態に気付くことであり、認知症を疑わせるような症状が出始めた時期に気付くことであると誤解してはいけません。 “早期認知症”の状態に気付くためには、認知症を疑わせるような症状の有無を注意深くチェックすることではなく、脳のはたらき(知的機能)を測ること、特に70歳を過ぎる頃からは「かなひろいテスト」で脳の老化度を毎年1〜2回チェックすることが最も確実な方法です。そして、遅くとも「小ボケ」から「中ボケ」へと移行し始めた時期までに気付くことであり、具体的な目安としては「年・月・日」の全てを正しく答えられるレベルで発見することです。理想的には「かなひろいテスト」が「合格」から「不合格」になったレベル(=「小ボケ」の始まり)で気付くことができれば、脳リハビリによって年齢相応の脳のはたらき(知的機能)を維持することが十分可能であり、認知症を確実に予防することができます。 認知症の早期発見、特に“早期認知症”に関する詳しい内容については、下記の〔参考図書等〕をご参照ください。 |
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| (5)あいかわの“脳リハビリ” | ↑目次へ |
| 「あいかわ」では、全国の施設に先駆けて平成12年から“早期認知症”の状態にある利用者を対象とした脳リハビリに取り組んできました。その結果、平成17年までの約5年間に脳リハビリを実施した62名のうち、脳のはたらき(知的機能)を「改善」できた利用者が20名(約36%)、悪化を防止し「維持」できた利用者が29名(約47%)という成績が得られ、“早期認知症”を対象とした脳リハビリの有効性を確認することができました。 「あいかわ」で実践してきた脳リハビリに関する詳しい内容については、下記の〔学会報告等〕をご参照ください。 |
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| (6)“脳リハビリ”の具体的な方法 | ↑目次へ |
| 現在、介護老人保健施設における「認知症短期集中リハビリテーション」だけではなく、日本早期認知症学会を中心に全国各地の様々な施設や地域において、「認知症の予防を目的とした脳リハビリ」が積極的に展開されつつあります。 しかし、実際に家庭や施設、地域で脳リハビリを始める際に、「どのようなことをすれば良いのか」という問題に直面する場合が多いようです。脳リハビリの具体的な方法(実施内容)については、「あいかわ」においても脳リハビリを実践する過程で様々な試行錯誤を重ねてきましたが、ここでは「基本的な内容」と「実施する際のポイント」をご紹介することにします。 《 脳リハビリの基本的な内容 》 @ 毎日の身体運動(体を動かす) A 会話、対人交流(話をする、声を出す) B 趣味や特技など(手を使う) C ゲームなど(注意力を高める) D 日記や外出など(見当識を高める) 《 脳リハビリを実施する際のポイント 》 @「 いきがい・なかま・やくわり 」をみつける A「 すきなこと・したいこと・できること 」をみつける B「 意欲・根気・自主性・計画性 」が高まるような内容をみつける C「 性格・生活歴 」の“良いところ”、“輝いていたこと”をみつける D「 か;感動、き;興味、く;工夫、け;計画、こ;恋 」をみつける 学習療法や音楽療法、動物療法、園芸療法、回想法など、様々な脳リハビリが普及してそれぞれに効果が確認されています。しかし、“どのような脳リハビリが効果的なのか”という視点よりも、“どのようにすれば対象者が脳リハビリに取り組み続けることができるのか”という視点で脳リハビリの内容や方法を選ぶことが重要です。集団リハビリに積極的に参加できる対象者もあれば、個別リハビリでなければ対応できない対象者も少なくありません。一言で言えば「対象者一人ひとりに適した脳リハビリをみつける」ことに尽きるということです。 上記の「脳リハビリの基本的な内容」と「脳リハビリを実施する際のポイント」を参考にしながら対象者に適した脳リハビリをみつけることが、“脳リハビリを実践するスタッフ自身に求められる脳リハビリ”であるかもしれません。 全国各地の様々な施設や地域において実際に取り組まれている脳リハビリの具体的な方法については、下記の〔参考図書等〕をご参照ください。 |
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| (7)かくしゃく(矍鑠)長寿に向けて | ↑目次へ |
| 今後ますます増加していく高齢者の“健康長寿”をサポートしていくためには、“身体の寝たきり予防”だけではなく、“頭の寝たきり予防”が大変重要な課題となっています。 有効な治療が見つけられていない認知症についても、“早期認知症”の状態で発見すれば“脳リハビリ”によって「脳のはたらき」を改善、維持することが十分可能であり、認知症を予防できることをご理解いただけましたでしょうか。 「あいかわ」は、地域のお年寄りが心身ともに健康な“ かくしゃく(矍鑠)長寿 ”を全うされるよう、今後とも様々な工夫や努力を重ねていきたいと考えていますので、地域の内外の皆様から多数のご意見やご指導を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。 |
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| 〔参考図書等〕 | |
| ○「脳リハビリテーションの実際;早期認知症の予防と改善のプログラム」 編著者/金子満雄、杉田フミエ (分担執筆;渕上 哲) 医歯薬出版株式会社,東京,2007.ISBN 978-4-263-23496-9 ○「実践!脳リハビリー早期認知症の診断と介入ー」 監修/金子満雄 編集/川瀬康裕、児玉直樹 (分担執筆;渕上 哲) 真興交易活繽聡o版部,東京,2007. ISBN 978-4-88003--805-6 C3047 ○「老人性認知症の介護と予防」 発行/特定・特別医療法人博愛会 介護老人保健施設あいかわ (非売品) |
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| 〔学会発表等〕 | |
| ○ 第10回全国老人保健施設大会(長野市);平成11年10月 | |
| 「知的障害からのアプローチ(第1報)―前頭葉機能からみた入所者の実態―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 社会福祉士 佐 村 美 香 | |
| ○ 第10回全国老人保健施設大会(長野市);平成11年10月 | |
| 「知的障害からのアプローチ(第2報)―リハビリへ取り組む態様と前頭葉機能―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 社会福祉士 長 尾 友 美 | |
| ○ 第11回全国介護老人保健施設大会(四日市市);平成12年10月 | |
| 「脳リハビリと知的機能の推移―知的障害からのアプローチ(第3報)―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 支援相談員 野 口 悟 志 | |
| ○ 第12回全国介護老人保健施設大会(東京都);平成13年10月 | |
| 「脳リハビリと知的機能の推移―知的障害からのアプローチ(第4報)―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 支援相談員 野 口 悟 志 | |
| ○ 第13回全国介護老人保健施設大会(福岡市);平成14年10月 | |
| 「入所者の知的機能と“脳リハビリ”―知的障害からのアプローチ(第5報)―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 准看護師 西 垣 洋 子 | |
| ○ 第13回全国介護老人保健施設大会(福岡市);平成14年10月 | |
| 「通所者の知的機能と“脳リハビリ”―知的障害からのアプローチ(第6報)―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 介護職 森 土 達 也 | |
| ○ 第4回全国早期痴呆研究会(北九州市);平成14年10月 | |
| 「介護老人保健施設における早期痴呆の頻度と“脳リハビリ”」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 施設長 渕 上 哲 | |
| ○ 第5回全国早期痴呆研究会(鹿児島市);平成15年9月 | |
| 「介護老人保健施設における“脳リハビリ”への取り組み | |
| ―2段階方式を導入した3年間の試行的実践を通じて―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 施設長 渕 上 哲 | |
| ○ 第14回全国介護老人保健施設大会(札幌市);平成15年10月 | |
| 「当施設における“脳リハビリ”への取り組み―知的機能障害からのアプローチ(第7報)―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 作業療法士 砂 田 祥 子 | |
| ○ 第1回日本通所ケア研究大会(福山市);平成16年2月 | |
| 「通所利用者の知的機能と“脳リハビリ”」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 作業療法士 宗 宮 未 奈 | |
| ○ 第6回全国早期痴呆研究会(新潟県三条市);平成16年9月 | |
| 「介護老人保健施設における脳リハビリの体制整備」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 施設長 渕 上 哲 | |
| ○ 第15回全国介護老人保健施設大会(高松市);平成16年11月 | |
| 「脳リハビリにおける「改善要因」の検討―知的機能障害からのアプローチ(第8報)―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 作業療法士 宗 宮 未 奈 | |
| ○ 第15回全国介護老人保健施設大会(高松市);平成16年11月 | |
| 「脳リハビリ前後におけるMMS下位項目の変化―知的機能からのアプローチ(第9報)―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 作業療法士 砂 田 祥 子 | |
| ○ 第16回全国介護老人保健施設大会(横浜市);平成17年8月 | |
| 「脳リハビリ:当施設における5年間の実践―知的機能からのアプローチ(第10報)―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 作業療法士 窪 田 智 文 | |
| ○ 第16回全国介護老人保健施設大会(横浜市);平成17年8月 | |
| 「脳リハビリ:長期観察事例の経過―知的機能からのアプローチ(第11報)―」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 作業療法士 宗 宮 未 奈 | |
| ○ 第7回日本早期痴呆学会(神奈川県平塚市);平成17年9月 | |
| 「早期痴呆検診の受け皿と介護老人保健施設」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 施設長 渕 上 哲 | |
| ○ 第9回日本早期認知症学会(福井県あわら市);平成19年9月 | |
| 「早期認知症の定義に関する検討」 | |
| 発表者 介護老人保健施設あいかわ 施設長 渕 上 哲 | |
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